恋は切なく、時に甘く



「ふざけんなよ!!」


手元にあった自分のライターを山本へと投げつけた。
いつもなら軽く避けるのに、山本は微動だにせずライターを顔で受け止める。当たった箇所はかすれて赤い傷を浮き上がらせる。


「どうして、避けないんだよ!」

「俺が悪いって、分かってるから……」


山本は、ただただ低姿勢で俺の怒りを受け止める。
その態度が俺の怒りを煽る。
こんなことしたくは無いのに……どうして、俺の気持ちを分かろうとしないのだろう。


事の発端は、俺が約束の時間に遅刻した事だというのに。
俺が早く待ち合わせの場所に着いていればあんな事にはならなかったのだ。
それは理解しているし、分かっているけれど、山本も悪い。
あれは、避けれたはずなのだ。

待ち合わせの時間を遅れていくと、山本は女たちに囲まれていた。
その状態はいつもの事だから、特に気にも留めなかった。
山本も俺に気がつき、他の者には向けない笑みを浮かべ俺へと手を振る。

「恥ずかしいやつ…」

そう口には出してみるが、その事が少し嬉しくてつい足早に向かった時……それは起こった。
周りにいた女の一人が、山本の首に腕を回し……濡れた唇を重ねたのだ。

「獄寺!これ違うから!」

すぐに女を引き剥がし、俺へと走りよって来た。
俺は目の前で起こったことが消化できなくて、今見た事を反芻し理解した俺は山本へとダイナマイトを投げつけ、家へと帰ってきた。
もちろん、山本は俺を追いかけてきて今に至るのだ。


「獄寺、俺が好きなのはお前だけだから!」


山本の言葉に、『そんなこと知ってる』と心の中で答える。
俺だって、お前だけだ。
だけど、山本の首に回された女の手が、その姿が……これが当たり前の関係なのだと、そう見せ付けられて……心が痛い。
本当は、男同士なんていけない事で、女性と付き合うのが当たり前で…そんな今更の事が重く圧し掛かる。

俺は、マフィアで…もう普通の生活なんて考えらんないし、したいとも思わないけど、山本は違う。
立派な親もいて、恵まれた環境にあって、未だにマフィアごっこだなんて思ってる甘ちゃんで……戻ろうと思えば、まだ普通の生活に戻れる。
普通に女と付き合って、結婚して、子供ができて……そんな普通の生活が築けるのだ。


「山本……別れよう」


今は辛くても、この先これが最善だと思える時が来る。
俺は、拳を握り締め山本へと告げた。