恋の始まり3

山本から逃げるように帰ってくると、制服のままベットへと寝転んだ。
未だに動悸が治まっていない。
忘れたいのに、忘れてしまいたいのに、触れてしまった唇がまだ熱をもっている。

「あいつ……どう思ったかな…」

天井を見上げながら、そう思った。
走り去る前に見たあいつの顔は、驚いた顔をしてはいたが、俺がした事を嫌がっているそぶりは無かった。
まぁ、嫌がる暇も無く離れてしまったのだが……そこまで考えて、自分の考えがおかしい事に気づく。

どうしてこんなにあいつの事を気にしてるんだ?
あいつは、ただの同じマフィアのファミリーで、それ以上でもそれ以下でもない。
嫌われたからと言って、その関係が変わるわけでもないのに……
嫌われたらと考えると胸が痛む。


「なんだよ、これ……痛い…」

胸が締め付けられて苦しい。ズキズキと今まで知らなかった痛みが全身に走る。
傷つけられたわけじゃないのに、傷などないのに……なのに、苦しくて、苦しくて、涙が零れる。
今までこんな事なかったのに。

「痛い……」

両膝を抱え、自分の腕で自分を抱きしめる。
少しは、楽になるような気がしたから。
暫く、そうしていると部屋のチャイムが鳴った。
いつもなら、無視する所だったが、なぜか一人になりたくなくて、誰が来たのかも確かめずに、そのドアを開けた。

「はい……っ、なっ!」

ドアを開けた瞬間にいたのは、山本だった。
俺は、開けたドアを閉めようとしたが、玄関先に足を入れられてしまい閉められない。
僅かな隙間から、山本は入り込み、俺の腕を掴んだ。

「離せ!」

「離さない!」

「イヤダッ!」

自分が変わるのは嫌だ。
今の関係が変わるのは嫌だ。
たった一度の気まぐれでお前を失うのは嫌だ。

「いやだ…っ…やだ…」

足の力が抜けて、その場に座り込み自分の顔を覆った。
ずっと知らない振りをしていたかったのに…。
心が否定する前に、身体が動いてしまった。
山本に触れたい、触れられたいと……動いてしまった。


「獄寺……あの、な?俺、自惚れてもいい?」

背後にいる山本が唐突に言葉を紡いだ。
声が震えていて、山本が緊張しているのが分かった。
俺は何も言わず、山本の次の言葉を待った。

「あ……あのな、お前も俺の事好きだったりする?」

いつの間に屈んで来たのか、声が聞こえた方へ視線を向けると、山本と向き合う形になっていた。
合わさった視線ははずせなくて、俺は何も言えなくてただ山本を見た。
いつもの飄々としている表情じゃなく、真剣で男の顔をしていた。
何も言わない俺に焦れたのか、山本は顔を近づけてくる。
拒もうと思えば、拒めた。
だけど、拒まなかった。いや、拒めなかった。
一度は、無くしてしまうと思ったぬくもりを、手放したくはなかった。

「獄寺……好きだ」

「うっせぇよ……」


つい出てしまった言葉に、しまったとは思ったが、山本は気にも留めていないらしく笑っている。
その笑顔にホッとしたのもつかの間、次の瞬間には押し倒されていた。

「おい……なんだこの体制は……」

「ん?なにって、ナニ?」

「どけろ、このアホ犬!!」

「犬って俺?……獄寺の犬になるんだったら、まぁ、良いか」

「良いかって…良くないだろう!!」

「獄寺、ちゃんと俺の面倒見てくれよな?」

「っ……しょうがないから、みてやるよ…」


真剣な表情をして言うから、つい本音で答えてしまう。
ずっと傍にいて欲しい……
約束するように、自分から山本の唇へと触れた。


end