山本から逃げるように帰ってくると、制服のままベットへと寝転んだ。 未だに動悸が治まっていない。 忘れたいのに、忘れてしまいたいのに、触れてしまった唇がまだ熱をもっている。
「あいつ……どう思ったかな…」
天井を見上げながら、そう思った。 走り去る前に見たあいつの顔は、驚いた顔をしてはいたが、俺がした事を嫌がっているそぶりは無かった。 まぁ、嫌がる暇も無く離れてしまったのだが……そこまで考えて、自分の考えがおかしい事に気づく。
どうしてこんなにあいつの事を気にしてるんだ? あいつは、ただの同じマフィアのファミリーで、それ以上でもそれ以下でもない。 嫌われたからと言って、その関係が変わるわけでもないのに…… 嫌われたらと考えると胸が痛む。
「なんだよ、これ……痛い…」
胸が締め付けられて苦しい。ズキズキと今まで知らなかった痛みが全身に走る。 傷つけられたわけじゃないのに、傷などないのに……なのに、苦しくて、苦しくて、涙が零れる。 今までこんな事なかったのに。
「痛い……」
両膝を抱え、自分の腕で自分を抱きしめる。 少しは、楽になるような気がしたから。 暫く、そうしていると部屋のチャイムが鳴った。 いつもなら、無視する所だったが、なぜか一人になりたくなくて、誰が来たのかも確かめずに、そのドアを開けた。
「はい……っ、なっ!」
ドアを開けた瞬間にいたのは、山本だった。 俺は、開けたドアを閉めようとしたが、玄関先に足を入れられてしまい閉められない。 僅かな隙間から、山本は入り込み、俺の腕を掴んだ。
「離せ!」
「離さない!」
「イヤダッ!」
自分が変わるのは嫌だ。 今の関係が変わるのは嫌だ。 たった一度の気まぐれでお前を失うのは嫌だ。
「いやだ…っ…やだ…」
足の力が抜けて、その場に座り込み自分の顔を覆った。 ずっと知らない振りをしていたかったのに…。 心が否定する前に、身体が動いてしまった。 山本に触れたい、触れられたいと……動いてしまった。
「獄寺……あの、な?俺、自惚れてもいい?」
背後にいる山本が唐突に言葉を紡いだ。 声が震えていて、山本が緊張しているのが分かった。 俺は何も言わず、山本の次の言葉を待った。
「あ……あのな、お前も俺の事好きだったりする?」
いつの間に屈んで来たのか、声が聞こえた方へ視線を向けると、山本と向き合う形になっていた。 合わさった視線ははずせなくて、俺は何も言えなくてただ山本を見た。 いつもの飄々としている表情じゃなく、真剣で男の顔をしていた。 何も言わない俺に焦れたのか、山本は顔を近づけてくる。 拒もうと思えば、拒めた。 だけど、拒まなかった。いや、拒めなかった。 一度は、無くしてしまうと思ったぬくもりを、手放したくはなかった。
「獄寺……好きだ」
「うっせぇよ……」
つい出てしまった言葉に、しまったとは思ったが、山本は気にも留めていないらしく笑っている。 その笑顔にホッとしたのもつかの間、次の瞬間には押し倒されていた。
「おい……なんだこの体制は……」
「ん?なにって、ナニ?」
「どけろ、このアホ犬!!」
「犬って俺?……獄寺の犬になるんだったら、まぁ、良いか」
「良いかって…良くないだろう!!」
「獄寺、ちゃんと俺の面倒見てくれよな?」
「っ……しょうがないから、みてやるよ…」
真剣な表情をして言うから、つい本音で答えてしまう。 ずっと傍にいて欲しい…… 約束するように、自分から山本の唇へと触れた。
end
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