走り去っていく獄寺を俺は追いかけなかった。 いや、追いかけられなかった。 触れられた唇が熱くて、指でそこをなぞる。
俯いていた獄寺が顔を上げ、その顔を直視した時どうして良いか分からなくなった。 いつもの眉間の皺は無く、素の表情をした獄寺がいた。 年相応のどこかあどけなくて、危げで……獄寺から俺に触れて来なかったら、きっと抱きしめていたと思う。 友達だと思っていた……こんな感情を獄寺に持つのは間違いだ。 そう思って付き合ってきていたが…これは、脈ありだと思ってもいいのだろうか?
校門の前で悶々と考え込んでいると、首の辺りにヒヤッとした物が当てられた。
「これ以上、交通の邪魔をするなら噛殺すよ」
「あ…雲雀ここ通る?」
「僕の話聞いてるの?邪魔だって言ってるだろ」
そういうと、雲雀は自慢のトンファーを振り上げる。 俺はそれをよけ、そのままその場を立ち退いた。 いくら俺でも、まだ雲雀には勝てない。 勝てない勝負を仕掛けるほど俺は馬鹿じゃない…と思っている。
「これから、どうすっかな……」
「これを持ってけ」
突然声が聞こえたかと思うと、頭にガッツと鈍い音共に、痛みが襲った。 声がした方を振り向くと、予想していた人物がいる。 投げられた物を拾い、赤ん坊に話しかけた。
「いきなり投げられたら反応できねぇだろ」
「これも、訓練の一つだぞ、山本」
「日々訓練ってか?確かにそうだな。んで、これなんだ?」
「本だ」
見れば誰でもわかるだろうとでも言いたげな赤ん坊の表情に、苦笑が漏れる。 どうやら、赤ん坊は俺の恋に協力的らしい。 俺の記憶が確かならば、ここ数日獄寺が持っていた本だろう。 今日になって、その本が見当たらないと言っていたから、読み終わっていないのが想像できる。 ようは、これを返しに行くついでに決着をつけろと言う事なのだろう。
「お前、ホントいい男なのな」
「当たり前だ」
「今度、寿司奢ってやるから」
俺は、そう告げると獄寺の住むマンションへと向かった。 きっと、明日になれば獄寺は何も無かったように振舞うだろう。 そんな事絶対にさせない、させたくない。 赤ん坊から受け取った本を握り締め、どう言えば俺の気持ちを分かってくれるか、道中真剣に考えていた。
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