恋の始まり2

走り去っていく獄寺を俺は追いかけなかった。
いや、追いかけられなかった。
触れられた唇が熱くて、指でそこをなぞる。

俯いていた獄寺が顔を上げ、その顔を直視した時どうして良いか分からなくなった。
いつもの眉間の皺は無く、素の表情をした獄寺がいた。
年相応のどこかあどけなくて、危げで……獄寺から俺に触れて来なかったら、きっと抱きしめていたと思う。
友達だと思っていた……こんな感情を獄寺に持つのは間違いだ。
そう思って付き合ってきていたが…これは、脈ありだと思ってもいいのだろうか?


校門の前で悶々と考え込んでいると、首の辺りにヒヤッとした物が当てられた。

「これ以上、交通の邪魔をするなら噛殺すよ」

「あ…雲雀ここ通る?」

「僕の話聞いてるの?邪魔だって言ってるだろ」

そういうと、雲雀は自慢のトンファーを振り上げる。
俺はそれをよけ、そのままその場を立ち退いた。
いくら俺でも、まだ雲雀には勝てない。
勝てない勝負を仕掛けるほど俺は馬鹿じゃない…と思っている。


「これから、どうすっかな……」

「これを持ってけ」

突然声が聞こえたかと思うと、頭にガッツと鈍い音共に、痛みが襲った。
声がした方を振り向くと、予想していた人物がいる。
投げられた物を拾い、赤ん坊に話しかけた。


「いきなり投げられたら反応できねぇだろ」

「これも、訓練の一つだぞ、山本」

「日々訓練ってか?確かにそうだな。んで、これなんだ?」

「本だ」

見れば誰でもわかるだろうとでも言いたげな赤ん坊の表情に、苦笑が漏れる。
どうやら、赤ん坊は俺の恋に協力的らしい。
俺の記憶が確かならば、ここ数日獄寺が持っていた本だろう。
今日になって、その本が見当たらないと言っていたから、読み終わっていないのが想像できる。
ようは、これを返しに行くついでに決着をつけろと言う事なのだろう。


「お前、ホントいい男なのな」

「当たり前だ」

「今度、寿司奢ってやるから」


俺は、そう告げると獄寺の住むマンションへと向かった。
きっと、明日になれば獄寺は何も無かったように振舞うだろう。
そんな事絶対にさせない、させたくない。
赤ん坊から受け取った本を握り締め、どう言えば俺の気持ちを分かってくれるか、道中真剣に考えていた。